今回は、Lenovoの人気モデル「IdeaPad 3 15ADA05」の完全不動個体の修理をご依頼いただきました。金沢市より店舗へ直接お持ち込みいただいた事例です。最終的に「EC(Embedded Controller)の内部故障」と結論づけ、基板交換に至りました。

🚨 症状:完全なる「沈黙」

- モデル: Lenovo IdeaPad 3 15ADA05
- マザーボード: NM-C821 (Ryzen搭載モデル)
- 症状: ACアダプタを接続しても、LED一つ点灯しない。電源ボタンを押しても安定化電源の電流値(A)が全く動かない。

お客様からのご申告通り、全く反応がない完全なる沈黙状態からのスタートです。
🔍 第1段階:待機電源の消失と「ブレーキ」の発見

まず、基板上の待機電源(3.3V)を確認したところ、本来出ているべきコイルに出力がありませんでした。

原因を辿って回路を追うと、電源IC(PU4)を有効にするためのEN1信号が、近くにある「3本足のトランジスタ」によって強制的にグランド(GND)へ落とされていることが判明しました。このトランジスタが「ブレーキ」となり、システム全体の起動を阻止していたのです。

このトランジスタを物理的に取り外すと3.3Vの出力は無事に復活しましたが、依然として電源ボタンへの反応はありませんでした。

🔌 第2段階:電源スイッチ信号の検証
このモデルの電源ボタンはキーボードと一体型になっているタイプです。キーボードコネクタ(JKB1)のピンアサインを特定し、実測を行いました。
JKB1の2番ピン(ON/OFF#): 通常時3.3V。ボタン押下で0Vに落ちる設計。


実測したところ2番ピンには正常に3.3Vが来ており、これを手動でGNDに落としても電流値は0.00Aのままでした。ここで、スイッチ自体の問題ではなく「スイッチの信号を受け取る側(EC)」に問題があることが濃厚となりました。
🧠 第3段階:司令塔「EC (IT8227E-128)」の徹底解剖
信号の終着点であるEC(IT8227E)の健康状態をチェックするため、複数の重要ピンを実測しました。ここで、極めて異常な「ゾンビ電圧」を観測することになります。

【観測された異常な数値】
| ピン番号 | 信号名 | 実測電圧 | 正常期待値 | 診断 |
| 37番 | EC_RST# (リセット) | 0.9V | 3.3V | 不定。ECが起動準備できていない |
| 120番 | ACIN (アダプタ認識) | 0.9V | 3.3V | アダプタが挿されたことを認識できていない |
| 115番 | LID_SW# (磁気センサー) | 3.3V | 3.3V | 正常(蓋は開いていると認識) |
| BIOS 1番 | CS# (チップセレクト) | 1.7V固定 | 変動 | 重要:ECがBIOSを読みに行っていない |
| BIOS 3/7番 | WP#/HOLD# | 0.6-0.7V | 1.8V | 異常。信号が浮いている |
【0.9Vという数値が意味するもの】
通常、これらの信号は基板上の「プルアップ抵抗」によって3.3Vまで引き上げられています。しかし実測値が0.9Vということは、ECの内部回路が壊れており、中途半端な抵抗値で電気をグランド(GND)に漏らしている(リーク)可能性もあります。
⚡️ 第4段階:バイパス手術による「論理故障」の確定
ECが「電気的に電圧が足りなくて動けない」だけなのかを確認するため、以下のバイパス(強制入力)テストを行いました。
ACINのジャンパ: 充電IC側の3.3V信号からECの120番ピンへ直接バイパス。結果、120番ピンは正常な3.3Vへ。

EC_RST#のプルアップ: 3.3V LDOから10kΩの抵抗を介して37番ピンを強制的に3.3Vへ。

これにより、ECが動き出す物理的な条件は全て整いました。どうやらEC内部のショートでは無さそう。しかし、BIOSの1番ピン(CS#)を観測しても、電圧は1.7Vで固まったまま波形一つ現れませんでした。
📋 結論:ECの「脳死」と修理方針
ここまでの検証で、以下の事実が確定しました。
- 物理的条件の不備:EC不良によるリセット信号やアダプタ認識信号が「ゾンビ電圧」化していた。
- 論理的沈黙: 電圧を外から補正しても、EC(IT8227E)はBIOSのデータを読みに行こうとしない(プログラムが走っていない)。
これはECチップ自体の物理的破壊、もしくはEC内部のファームウェア破損の可能性が高い事を意味します。電源ボタンを押してもアンペアに変化もない事からEC自体が命令を出せていないようです。IT8227Eはプログラム書き込みが必要なチップであり、単なる交換だけでなく特殊なプログラマーによるデータ書き込みが必要です。
今回は、基板上の信号ライン全体に不安定なリークが見られたこともあり、お客様にご連絡。今回は比較的安価にマザーボードが入手出来そうだったので「マザーボードごとの交換」という判断になりました。
✅ マザーボード交換
ECの「脳死」が確定したため、同型の新しいマザーボードを取り寄せ、交換作業を実施しました。
マザーボード交換: 海外理寄の為、約2週間ほどかかりました。届いた新品のNM-C821基板へCPUファンや各パーツを移植。

動作チェック: 電源ボタンを押すと、無事にLenovoロゴが表示されました。

ライセンス認証: Windows起動後、デジタルライセンスの認証も自動で行われ、問題なく使用できる状態であることを確認。

全ての負荷テストをクリアし、修理完了です。
🗂️ 今回の修理ポイントまとめ
| 項目 | 内容 |
| 症状 | 電源が全く入らない(電流値0.00A) |
| 原因 | EC (IT8227E) の内部リーク・論理故障(脳死状態) |
| 特定方法 | 待機電源の確認、EC各ピンの電圧測定、バイパス(強制入力)テスト |
| 対応 | マザーボード交換(基板全体の不安定性を考慮) |
| 結果 | ECの物理的・論理的破壊を断定し、最適な修理方針を決定 |
📝 今回の修理費用
| 項目 | 価格 |
| マザーボード交換 | 45,000円 (部品代、税込み) |
| その他 |
※上記は修理作業当時の価格となります。
🗣️ 電源が入らない症状でも、原因は千差万別です
同じ「電源が入らない」という症状でも、原因によって修理の難易度やアプローチは大きく異なります。
- 比較的容易に修復可能なケース: マザーボード上のコンデンサ不良やMOSFETのショートなど、特定の電子部品を1つ交換するだけで直る場合。
- 今回のようなケース: メインIC(EC)自体の物理的な破壊や論理的な故障により、基板全体の修復が困難でマザーボード交換が必要になる場合。
これらは外観から判断することは不可能であり、実際に分解してテスターによる精密な測定を行ってみない限り、修復可能かどうかは分かりません。
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【フォーム入力の目安・ご準備いただくもの】
- お客様情報(お名前・メールアドレス・電話番号・ご住所)
- パソコンのメーカー名(富士通、NEC、東芝、DELL、HP、Lenovo など)
- パソコンの型番(本体の裏面や側面のシールに記載されています)
- OSの種類(Windows 11、Windows 10、または古いバージョンのWindows)
- 現在の詳しい症状(例:「突然電源が入らなくなった」「異音がしてデータが見られない」など)
※お問い合わせに関するご注意事項 当店からのご返信メールが、迷惑メールフィルターなどの影響でお客様へ届かないケースが増えております。フォーム送信後、3日経過しても当店からの返信がない場合は、大変お手数ですがLINEまたはお電話にて直接ご連絡をお願いいたします。
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